段々色ブログ

障害者アートギャラリー店主の気まぐれ帳

農福連携の流通に挑戦

 

農業に取り組む施設と知り合う

前職時代はSNSなどに全く興味がなかったのだが、ギャラリーを始めてから宣伝になればと思いインスタグラムを始めた。少々続けているとフォロワーもついてくるようになる。当然のことながら障害者アート関連の方を私も積極的にフォローしたし、向こうからフォローが入ってくることもあった。始めてみるとインスタグラムは結構便利で、今は作家と知り合う重要なツールになっている。

しばらく続けると、いろいろな障害者施設ともインスタ上で知り合うようになった。そして農業に取り組む施設のことをいくつも知ることになった。

 

障害者と農業

障害者施設は過去いくつか訪問をしてきた。パンやクッキーを焼くなど食品加工に取り組むところが多い印象だが、他にも紙漉きや石鹼造りなどを行う施設もあった。

そんな中、農業に取り組む障害者施設の話を聞いて、なるほどと思った。農業には、苗を育てる仕事、植える仕事、雑草取り、収穫、梱包などたくさんの仕事がある。どんな障害者にも何か向いている仕事はあるのではないだろうか。屋内で加工品を作る仕事は精密さが要求されるだろうが、農業の場合は許容範囲が広い気がした。

 

自然食品卸の会社

私の前職は“らでぃっしゅぼーや”という有機野菜の宅配をする会社だったし、現在も“風水プロジェクト”という自然食品卸の会社に少し関わっている。ちなみに、この会社の社長は有機野菜の流通の老舗である“大地を守る会”OBで、私とは30年来の付き合いだ。私が前職を辞めたときに会って障害者アートをやると話した時、「それならウチに来い。事務所の隣が空きスペースになっているので、そこでオーガニック国産紅茶の店をやろうと思っていた。ここでギャラリーをやりながら、風水プロジェクトの仕事も手伝ってくれ」ということになった。つまり私はまだ自然食業界にゆるくかかわっているのである。

 

ところで障害者施設での栽培に農薬を使うはずがないので、オーガニックもしくはそれに準ずる野菜が作られる。そして私はオーガニック系の野菜の流通に関しては少々の知識と経験、そしてツテがある。農福連携は私にはピッタリのテーマだと思った。

もちろん施設の野菜の流通には課題はいくつもある。しかし物さえそろえば、農福連携の野菜を都内の自然食品店に並べることはできなくないと思った。

そして障害者アートの傍ら、農福連携に取り組む施設の調査を始めた。

 

日本の農業の課題

農福連携の話の前に、まず日本の農業全体について触れておきたい。ご存じの方も多いと思うが、日本の農業は深刻な状況にある。

一番の問題は農業従事者が減っていくことだろう。2019年のデータでは、日本の農業従事者は168万人ということだ(人口のわずか1.4%である)。2009年は289万人なので、10年で40%減っていることになる。平均年齢が67歳になっていることを思うと、今後も同じペースで減っていくに違いない。食べるものが自給できないという大問題を抱えているのである。参考までに、日本の食料自給率38%は先進国の中ではビリである。

 

もうひとつの課題は農薬使用量だ。単位面積当たりの農薬使用量で見ると、日本は世界のトップレベルである(他国のデータが怪しいので、ダントツトップとまでは言い切らない)。

 

農福連携の課題

日本の農業がこのような状況なので、農福連携に期待をしたいと思っているわけである。ずいぶん前から農業に取り組んでいる施設は多いようなので、ザックリ概要をお伝えしたい。

一昨年、東京都中野区の「きょうされん」で話を聞いた。この組織は障害者事業所1860団体が加盟する全国組織だ。「きょうされん」は2010年に障害者施設の農業の実態をアンケート調査している。少々古い調査だが大枠はつかめると思う。

対象は1553件、回答が692件(回答率44.6%)のデータである。以下が調査結果の一部である。

 

農業活動をしている施設は41%で、今後取り入れたいが12%、予定なしが38%で、取り入れたがやめたが9%という結果だった。

農業に取り組んでいる理由のトップが「健康・精神に好ましい」(62.6%)で、農業をやめた理由のトップが「専門スタッフの確保困難」(49%)である。

 

思った以上に多くの施設が農業に興味を持っているということがうかがえる。また、専門スタッフの確保が鍵であるという実態も見えた。

当ギャラリーが契約している社会福祉法人 嬉泉(絵画部門は「アトリエAUTOS」)も過去に農業を行っていたが、指導してくれる農家がいなくなり農業をやめた。指導者がいればいつでも再開したいと担当者から聞いた。

 

流通・販路

さて、他にも農業現場以外で私が感じている課題は販路である。私が訪問した施設のほとんどが直売所での販売なのだ。つまり一般の小売店に生産物は並ばない。

理由は収穫量の少なさにある。少量しか作れないから直売所で十分だということか、または直売所しか販路がないから少量生産しかしないということのどちらかである。

少量では流通に乗せるのは厳しい。販路開拓が先か、収量増が先かということだ。なんとかバランスよく増やしていく方法を模索しなければいけないだろう。

 

組織の設立

先ごろ元同僚(有機野菜の宅配)と二人で一般社団法人を作った。元同僚は某有名通信企業の社員で、会社に副業の申請をしてこの事業を行う。私も障害者アートの脇の仕事になるので、いきなり大きな仕掛けができるわけではない。しかし、まず動き始めるのが大事だと思っている。力まずゆっくりやりたい。

ちなみに元同僚が代表を勤め、私は理事という役割である。監査には知り合いの弁護士さんがついてくれたので、小さいながら頼もしい組織になった。

 

今現在、東京の小売店で農福連携の農産物を見かけることはない。なんとか障害者が作る野菜や加工品を一般の流通に乗せ、誰でも買えるようにしたい。そうすれば障害者への理解も深まるだろうし、販売が拡大すれば障害者の居場所も広がる。そして少しでも農業問題の解決提案になればと思っている。