障害者アートのレンタル
このたび絵の販売と並行して、レンタル事業を始めることにした。実は会社設立前から検討をしていたことで、会社の定款にも「レンタル事業」は載せてはいた。
6年前、障害者アートを始めるにあたり、いろいろな画廊を視察したり、画廊経営者に話を聞いたり、美大卒の友人に話を聞いたりしていた(ほぼ全員にギャラリーはやめておけと言われたが)。
ある時に障害者アートの企画展を見に行った。その企画を担当した人に事情を説明しアドバイスを求めたとき、「あなたの事業はうまくいきません。誰も絵なんか買わないんですよ」と言われ、ズッコケたことがある。小さい展覧会とはいえ、その企画者がこんなことを言うのである。最後には「頑張ってください」と来場者全員(みんな知り合いのようだった)に私のことを紹介し激励してくれたのだが、やっぱり原画販売は厳しいのだろうなと思った。こういうこともあったので、レンタル事業を視野に入れていたということなのである。
会社はレンタルが使いやすい
下北沢の喫茶店の中でギャラリーを開始した後、前の会社の監査役だった方が来てくれた。この人は某大手企業にいた方で、退職して経営コンサル会社を経営されている人だ。この人にレンタルを早くやるべきと強く勧められた。前に勤めていた企業が絵画のレンタルを利用していたそうで、いくつかの会議室に飾ってあったそうだ。そのレンタルサービスは絵が定期的に交換になる。その人は毎回新しい作品を楽しみにしていたとのことだった。
また、経営コンサルをやっている人だけあって、会計の視点でのアドバイスもいただいた。絵は一定の金額を超えると資産になってしまう。たとえば企業がずいぶん昔に買った絵を後にどう処分していいか困るということもあるらしい。その点レンタルの場合は経費で処理できるし、サービスの停止も出来る。企業としてはレンタルの方が使いやすいということである。この話はとても参考になり、作家が所属する施設に話をしてみた。
作品の劣化が心配
相談した施設はレンタルに否定的だった。過去、絵を貸し出したところ、絵の変色して戻ってきたらしいのだ。レンタルは作品がどこに飾られるかわからない。日が当たる場所などに飾られる可能性はありうるわけだ。
また、事業として行うということは、その作品がどんどん別のサービス利用者のところに渡っていくことになり、作家にいつ戻るかわからないということも問題だった。これは難しいということで、長い間あきらめていた。
コロナ不況
2020年から日本でもコロナが広がり、外出を控える生活が普通になった。2年前には食品など日々の暮らしに必要なものの販売以外は自粛せよとのお達しがあり、当ギャラリーも開けることができない期間があった。最近は外出もできるようになってきたが、不況はむしろ深刻さを増しているのではないだろうかと思う。
私たちは百貨店での企画も行っているが、コロナの影響は百貨店を直撃しており、来場者は非常に少なくなっている。おまけに円安だ。苦しむ企業が多くなっているのは間違いないし、回りまわって絵画の販売はバッチリ影響を受けているのである。
そこで長く放っておいたレンタルに踏み込むことにしたというわけである。
レプリカ
作品はレプリカにすることにした。原画に勝るものはないと思ってきたが、レプリカにするといい面もあることがわかった。
まず展示環境、輸送による劣化・破損があっても、原画には影響がないということが一番。また障害者アートには褪色しやすい画材を使った作品もあり販売しにくいものがあるが、このような作品も対象にできる。他にも作家や所属する施設が非売にして大切に保管しておきたい作品や既に売れてしまった優良な作品も扱えるというのも大きなメリットだ。
レプリカと言っても、色の再現性の良いジークレー印刷で製作しているので再現性はとても良い。
作家への支払い
作品は3ヶ月に1度作品を交換するので、たくさんの作品を楽しんでいただける。そして売上の10%が作家に支払われるという仕組みである。利用者が増えると、安定的に作家にお金を払うことができる。
また、作品とともに作家のプロフィールを届けるようにしている。作家を身近に感じていただけるのではないかと思っている。
なお、オイシックス・ラ・大地株式会社の新海老名センターで5月から先行してサービスを開始している。休憩室・廊下に11枚の作品が展示されていて、従業員の方の評判も良いと聞いている。
日本には合っている仕組み
日本は展覧会の観客動員数で世界一。つまり世界一美術館に行く国民だ。しかし、アートの市場規模は世界の市場のわずか3%しかない。
大雑把に言うと、絵を見ることは大好きだけど絵は買わない国民であるということになる。そんな日本においては、レンタルは馴染みやすい方法なのではないかと思っている。
ギャラリーを始めてから、私は障害者アートに力があるという確信は得た。一日一日、絵を描いて過ごす作家にレンタルサービスの仕組みで支援をしていけたらと思っている。
なお、サービス名の「あんじゅあーと」はフランス語の「ange art」で天使の絵という意味である。フランス語読みでは「アンジュアール」だが「art」を英語読みにすることにした。
天使の作品を多くの方に楽しんでいただけたら幸いである。
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