段々色ブログ

障害者アートギャラリー店主の気まぐれ帳

フェアトレードと学校

 

学校に行きたい

前の会社に勤めていた時の話である。バナナのフェアトレードに取り組む団体の方たちと親睦会があり、代表の方から説明を受けた。途上国の問題、フェアトレードの意義、そしてフェアトレードに取り組むことで現地に学校ができること。

現地の子供たちは学校に行きたくても行けずに、労働力として親の仕事を手伝っている。学校は子供たちの個性と能力を伸ばす場所だ。学校でたくさんのことを経験し、いろんなことを学びたいだろうなと思った。

 

おいしいコーヒーの真実

10数年前に「おいしいコーヒーの真実」という映画を見た。世界のコーヒーは、大手企業が支配している。エチオピアのコーヒー生産者に支払われる代金は少なく、農地を手放さざるを得ない人がいたり、コーヒーをやめて麻薬の栽培に切り替える人まで出る。世界で1日に20億杯飲まれるコーヒーの裏側には搾取の実態があるということを世間に知らしめた映画である。

 

この映画の後半に、現地の生産者が学校について話すシーンがある。これを見て、以前聞いた途上国における学校というものの全体がようやく理解できた。

意味合いとして、学校は子供が行きたいところではなく、親が子供に行かせたい所だったのだ。エチオピアの生産者は文字が読めない。だから契約書が理解できない。計算もできない。だから数字にごまかしがあっても見破れない。つまり、いいように騙されるということなのである。

高度な教育ではなく、読める、計算できるという能力が必要なのだ。それがなくて自分たちは苦しい人生を送ってきた。学校は、同じ思いを子供達に絶対させたくないという親の願いなのである。

 

フェアトレード(Fair Trade)とは

途上国の歴史を振り返ってみる。16世紀、ヨーロッパの列強国によりアジアやアフリカなどの国は植民地支配されることになった。列強国は貿易で利益を得るために、途上国を政治的に支配する。そして現地の安価な労働力を利用し、取引価値の高い単一作物を大量に栽培した。

現地の先住民は奴隷のように働かされ、利益を出すのは支配国だけだ。主な作物はコーヒー、カカオ、綿花、バナナなど。もうほとんどの国が独立をしているのだが、不公平な取引による貧困は続いている。

フェアトレードは公平・公正な貿易という意味であり、つまりは現地の労働者に適正なお金を支払うということである。そしてその仕事のやり方や他国との正しい関係性を現地に根づかせていくのだ。

 

風の学校

もう30年前の話だが、千葉県の「風の学校」を視察したことがある。この学校は中田正一さんという元農水省に勤めていた方が始めたNGO組織だ。設立のキッカケは中田さんがユネスコの委託で農業指導のためアフガニスタンに赴いたことだった。中田さんがそこで見たのは政府開発援助で日本から送られた農業機械だった。これらの機械は錆びて放置されていたそうだ。燃料も修理部品も買えない国に高度な機械を贈っても、何にもならないということである。

それから中田さんは「風の学校」を作った。人が生きるうえで絶対に必要なのは水だ。だから風の学校では井戸掘り技術を教える。井戸掘り機の材料は現地で調達可能なもの(木や竹など)を使う。また、電気などのエネルギーはないのだから風車を使う。風はどこにでも吹くからだ。これらの技術は、現地の人たちと一緒に作業をすることでしっかり現地に伝授されていく。

 

私が伺ったときは、ちょうど数名の若者が技術習得を終え海外に向かう直前の壮行会の日だった。この翌年に中田さんは亡くなられ、風の学校も今はない。しかし、ここで学んだ人たち、その人たちに学んだ現地の人たちが中田さんの教えを広めてくれただろうと思っている。

 

フェアトレードの背景

途上国では日本人の想像を超えることが起こる。たとえば長期で使うお金として現地の人に渡したのに、あっという間に使い切ってしまったという話を聞いたことがある。

寄付のような善意ではきっとダメなのだ。老子の言葉にもあるように「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」である。お金を稼ぐ方法を知り、しっかり努力をし、実際にお金を得る。それをベースに現地の人が社会の仕組みを作っていくということが大切なのだろうと思う。

 

ところで、残念ながら日本のフェアトレードの認知率は低い。欧米諸国と違い、日本ではフェアトレードの教育がほとんどされていないからだそうだ。フェアトレード商品は自然食品店では見つけられるので、どんなものがあるかぜひ見てほしいと思う。そしてその背景をぜひお店の人に聞いてほしい。お店の人が知らなかったら、調べてみよう。必ずあなたの心を揺さぶる背景があるはずだ。