段々色ブログ

障害者アートギャラリー店主の気まぐれ帳

施設紹介「佛子園」

輪島KABULET(カブーレ)

 

福祉施設の最先端

このブログでは農福連携に取り組む障害者施設をご紹介していきたい。まず最初は石川県の「佛子園」。2016年にテレビ「カンブリア宮殿」でも紹介された施設である。今年の3月に仲間と2人で訪問してきた。

 

訪問のキッカケは、今年1月に金沢市の百貨店で開催した障害者アートの展覧会だった。この展覧会は当ギャラリーで企画を担当している。今年の展覧会に福島県の障害者施設「わーくる矢吹」に所属する「ねこじゃらし」さんが初めて出展した。「わーくる矢吹」施設長の小林さんはこの時期に石川県まで見に来ることができず、知り合いである佛子園の竹中さんに代わりに見に行ってほしいと依頼をした。竹中さんは佛子園の理事で、施設のひとつ「日本海倶楽部」の施設長を務めている方だ。本拠地の能登から「ねこじゃらし」さんの絵を見に駆けつけてくれたということである。

私はテレビで佛子園のことを知り、いつかはお邪魔したいと思っていた。展覧会会場でお会いすることができ、訪問の約束を取り付けたわけだ。

 

シェア金沢

農福連携に取り組む福祉施設の事例紹介と冒頭に書いたが、佛子園は福祉施設の枠を大幅に超えていて、農福連携はごく一部の活動に過ぎない。

ここの凄いところは、施設を作るとか何かに取り組むとかという発想を超え、町を作って生活のデザインをしてしまうダイナミックさなのである。施設も10以上はあるようで、とても全体を紹介はしきれないし、我々が訪問したのはそのうちのわずか4か所だ。

 

まず伺ったのは、絵画に取り組む施設「エイブルベランダBe」。これは障害者アートの施設として、いつかあらためて紹介する。

その後に向かったのが、「シェア金沢」だ。敷地面積は11000坪。ここには障害児入所施設、高齢者向け住宅などの福祉施設だけでなく、一般の学生向け住宅、天然温泉(佛子園の象徴だ)、食堂、カフェバー、売店などがある。本当に町がひとつ出来上がっているのである。これを作るには莫大な資金が必要だった。計画した佛子園もお金を貸した銀行もよく腹をくくったものだ。

 

ごちゃまぜ

佛子園のテーマは「ごちゃまぜ」だ。ひとつの場所にたくさんの種類の人を混在させることで、世の中にはいろいろな人がいて当たり前という実体を作っていく。

シェア金沢は障害者と世話をする健常者だけでなく、大学生やなど一般人も混ぜ込んでいく発想で設計された。また、高齢者が健康な段階で入居し、継続的なケアを受けながらずっと暮らすことができる共同体「CCRC(Continuing Care Retirement Community)」というアメリカ発祥の考え方があるが、シェア金沢はこの日本版モデルでもある。先進的な取り組みなので、年に数百もの視察団が訪れる。

 

ところで「カンブリア宮殿」を見て印象に残っているシーンがある。一人の認知症の高齢女性は、ある重度の障害者の面倒は自分が見なければいけないと感じたのだろう。彼女は、食べ物をスプーンですくって重度障害者に向けてゆっくり差し出す。重度の障害者も普段動かない首をスプーンに近づけていき、そして口に入れた。世話をされる側の人も世話をする。誰もが何かの役割を持っている。そんな「ごちゃまぜ」の世界の奇跡の1コマだった。

 

輪島KABULET(カブーレ)

それからレンタカーで輪島市を目指す。

輪島は能登半島の北東側にある人口24000人の町だ。この町でも佛子園は温泉を掘った。そして温泉と食事ができる複合施設を建てた(トップの写真)。

温泉の前にはスポーツジムを作る(なぜこんな発想ができるのだろう)。近所に料理教室も作る。もちろん障害者用住宅を作り、宿泊施設も作っていく。シェア金沢は町を作ったが、輪島では町の中に佛子園の施設をいくつも作っていくというやり方だ。そして、あらゆる施設で障害者が健常者と一緒に仕事をしている。輪島の町を巻き込んだ「ごちゃまぜ」である。

 

温泉は近所のみんなが利用する。この日も多くの人が来ていた。私たちも温泉に浸かり、併設の食事処で竹中さんと話をする。

その時、窓の外に小学生の子供たちが自転車を止めてたむろしている光景を見た。この温泉施設はみんなが集まる場所なのだ。今、都会で子供たちが集まってくる施設というのは何があるだろうか。何か懐かしい光景を見た気がした。

この日はゲストハウス「うめのや」で宿泊する。もちろん佛子園の施設である。

 

日本海倶楽部

翌朝、我々二人は能登半島先端の珠洲市にある「日本海倶楽部」に向かう。日本海倶楽部には農地がある。そう、今回の訪問の主目的は農福連携だった。ひとつひとつに度肝を抜かれて何をしに来たのか忘れかかっていた。

社会福祉法人が農地を取得するのは石川県では初めてなのだそうだ。栽培品目はブドウ、シイタケ、カボチャなどだ。加工品も作っている。今のところ売り先が決まっているようなのだが、いずれは我々も扱えたらと思っている。

 

それから日本海倶楽部レストランで食事をする。ここで地ビールも作っているのだ。日本海倶楽部のビールは酵母が生きたまま残っているところが特徴だ。2014年のブルワリー・オブ・ザ・イヤーを受賞しているおいしいビールである。

レストランは海を見下ろす場所に建てられている。アンティーク調の店内は、時間がゆっくり流れるようないい空間だった。もちろん食事も本格的でおいしくいただいた。

この大きな施設ももちろん佛子園がゼロから作ったそうだが、もう何を聞いても驚かなくなった。

 

100年先を考える

佛子園の代表は雄谷良成さんという方だ。佛子園はもともとお寺さんで、祖父の代に障害者の受け入れを始めたという。だから雄谷さんは障害者と共に育った。雄谷さんは特別支援学校の教諭から海外青年協力隊の経験を経て佛子園にもどり、シェア金沢などを作った。

 

雄谷さんは、100年先にどうあるべきかを想像し、そして逆算で今やるべきことを考えるのだそうだ。また佛子園には「福祉の力で町を活性化させる」という理念がある。福祉を目的とせず手段として活用すると言っている。福祉をこのように位置付けた言葉を私は初めて聞いた。ここに佛子園の強い信念を感じた。

佛子園は若いスタッフにもどんどんチャレンジをさせていく組織なのだそうだ。だから社会福祉法人の関係者はもちろんのこと、一般企業の方も是非一度その考え方に触れてほしいと思う。きっとたくさんのヒントをもらえるはずだ。

 

佛子園は視察ツアーを随時受け付けている。詳しくは佛子園ホームページをご覧いただきたい。

http://www.bussien.com/